
和の心、つくばい:庭園の趣
つくばいとは、日本の庭園、特に茶庭でよく見かける、趣深い手水鉢のことです。茶室に入る前に、客人が手や口を清めるために用いられます。その姿は、静寂な庭の景色に溶け込み、訪れる人に心静かなひとときを与えてくれます。
つくばいという名前の由来は、「しゃがむ」という意味の古語「つくばう」から来ていると言われています。水鉢は意図的に低く据えられており、客人は自然と腰を屈めて水を使います。その姿が、まるで地面につくばっているように見えることから、この名がついたとされています。
つくばいの構成は、通常、中心となる手水鉢と、それを支える前石、湯桶を置く台石、そして水を溜める海(かい)と呼ばれる部分からなります。海には、蹲踞(そんきょ)と呼ばれる、背の低い灯籠のようなものが置かれることもあります。これらの石は自然石を用いることが多く、一つ一つ異なる形や風合いが、庭に自然な美しさをもたらします。
つくばいは、単に手を清めるための道具ではなく、茶室という特別な空間へ入るための心の準備をする場としての役割も担っています。水の音、石の感触、周りの景色などを通して、五感を研ぎ澄まし、心を落ち着かせることで、茶を楽しむための静寂な心持ちへと導かれます。
古くから日本人は、自然への敬意と、相手をもてなす心を大切にしてきました。つくばいは、そうした日本人の精神性を象徴する存在と言えるでしょう。静かで美しい佇まいの中に、深いおもてなしの心が込められているのです。